先日開催された日本癌学会において、日本における閉経前のER陽性乳癌が、著しく増加しているとの報告が出されました。
この報告によると、ER陽性乳癌の占める頻度は,50歳以下においては,1982~91年が53.9%であったのに対し,1992~2001年では72.3%,2002~09年では85.6%と著しく増加していた(P<0.0001)とのことです。
以前は閉経前の乳癌には、ホルモン非依存性(ER陰性)のものが多いと言われていました。しかし、乳癌学会発表の2006年度のがん登録のデータでも同様の傾向があるため、現在の閉経前乳癌にはホルモン依存性のものが多いというのは事実のようです。
しかし、昔に比べてER陽性乳癌がこんなに増加しているのか、ということについては少し検討が必要です。なぜなら、現在のERの判定は免疫染色という手法を使って、顕微鏡的に染色される細胞の比率で判断しますが(IHC法)、少なくとも1990年代半ばくらいまでは乳癌組織の一部を採取してEIA法という方法で定量的に測定していたからです。
EIA法の場合、採取する場所によって異なる結果が出る可能性がありますし、陽性、陰性の判断基準も数値ですのでIHC法とは異なります。ですから、IHC法で測定していた時代のER陽性率とIHC法で診断したER陽性率とは単純には比較できません。正しくは、EIA法で測定していた標本をすべてIHC法で測定し直した上で比較しなければ正確なデータとは言えません。
私はこの発表を実際に聞いたわけではないので、IHC法で判定し直したデータかどうかはわかりませんが、もしIHC法で判定したデータなら、非常に興味深い報告です。やはり、生活環境の変化によって発生する乳癌の性質も変わってきているということですから。言い換えるなら、現在増加している乳癌は、この生活環境の変化によって生じた上乗せ分によるとも推測できるからです。
もちろん、”乳製品の消費量が増えたからだ”、と一部の人たちが主張しているような単純なものではないと思います。50年前と比較するならわかりますが、この間の乳製品の消費量はそれほど急増はしていないと思われるからです。インスタント食品やファストフードの増加、コンビニの普及、ますますの少子化、晩婚化、キャリアウーマンの増加、電子製品の増加による電磁波の影響…。この20年間にはさまざまな生活環境の変化があります。大切なのは、これらを正確に解析して、閉経前に乳癌になりやすいハイリスクグループを同定することだと思います。
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