早期乳癌に対する局所治療は、乳房切除術から乳房温存術、そして将来的には非切除治療=焼灼療法(ablation)へと移り変わろうとしています。
焼灼療法は現段階では、まだ標準的な治療となっていませんが、国内でも試験的に導入されてきています。乳房にメスを入れない治療は、女性にとって非常に魅力的ですが、まだ様々な問題があり、施設によっては適応や治療内容に疑問を感じることもあります。標準治療が存在する早期乳癌に対して、このような先進的な治療を取り入れる場合には、患者さんに不利益を生じないように慎重に導入を検討すべきなのですが、なし崩し的に行なわれているケースがあるのが危惧されます。
焼灼療法にはいくつか種類があります。代表的なのは、ラジオ波焼灼療法、集束超音波療法などです。
このうち国内で最も多く行なわれているのが、ラジオ波焼灼療法(Radiofreequency Ablation:RFA)です。エコーで見ながらラジオ波で熱を発生するチップを癌巣内に挿入して癌を焼く方法です。もともと肝癌などに用いられてきた治療法で局所制御効果には一定の実績があります。しかし、乳癌に対する治療としては、まだエビデンスに乏しく、国内の臨床試験が開始されて間もない段階ですが、各施設ですでに臨床応用が行なわれている状態です。また、エコーガイドなので、MRの広がりの範囲と焼灼範囲のモニターが難しいなどの問題点があります。
一方、MRガイド下集束超音波手術(MRI guided Forcused Ultrasound Surgery:MRgFUS)は、2001年に米国で初めてFDAが臨床試験を認可したablationです。虫めがねで光を集めて熱を発する原理と同様に、超音波を1点に集めて熱を生じさせて癌を焼く治療法です。MRモニター下で行なうため、MR画像で焼灼範囲の計画を立てた通りに治療することが可能であり、治療データの保存が容易で温度のモニターもできます。画像の比較が容易なため、治療後の再発チェックのフォローもしやすく、万が一再発した場合の原因検討もRFAに比べると容易です。
MRgFUSは、治療後に切除して治療効果を評価する臨床試験(BC003)を終了し、現在FUS後に放射線治療を加えて非切除とする臨床試験中(BC004)です。国内では、ブレストピアなんば病院(宮崎)が、この臨床試験に参加しています。
適応は、大きさ2cm以下、広い乳管内進展がない、リンパ節転移がない、腫瘍が皮膚・肋骨から9㎜以上離れている、などです。現在は、粘液癌は癌巣内を超音波が素通りしてしまうため、効果が乏しく、適応からはずしているようです。
これらの焼灼療法の問題点は、
①切除しないため、治療範囲内に癌がおさまっているかどうかを確認できない(MRgFUSのBC003では、乳管内成分の治療範囲外の遺残率は34.5%)
②したがって、手術の場合、断端陽性の際に追加するブースト照射の適応が判断できない
③治療範囲内も100%の癌細胞が死滅するとは限らない(BC003では、熱凝固面積は96.7%)
などです。ですから、治療後の乳房内に癌細胞が残っている可能性は手術に比べると高いことが予想されますので、放射線治療は必須です。放射線治療を省略して良いという根拠はありません。しかし、一部の施設では非照射で治療が行なわれているようです。この場合、かなり高い率で局所再発をきたす可能性がありますので注意が必要です。
以上のように、今のところまだ標準的治療にはなっていませんが、将来的にはこのような非手術的な局所治療(ablation)が標準治療となる時代が来るのではないかと思います。そのためにもきちんとした臨床試験を行なう必要があります。ばらばらの治療を各施設で行なうと、せっかくの良い治療なのに、問題点だけが表面化してしまうからです。
早く、これらの治療が標準的治療法の一つになれば良いですね!
2 件のコメント:
ラジオ波治療を行っている東京の某クリニックにセカンドオピニオンで相談に行ったことがあります。
しこりが大きく複数あることから母の場合はラジオ波は選べませんでしたが(先生はやってやれないことはないと仰ってましたが不安なので…)体に負担が少ないしあともきれいだし、これが標準治療になる日が来たらいいなと思いました。
その先生は今のところラジオ波+放射線の局所再発の確率は温存手術+放射線よりむしろ低いくらいだと仰ってましたが、実際どうなのでしょう?
仮にラジオ波治療後に局所再発してしまった場合、再度ラジオ波治療を受けたり温存手術等に切り替えることは出来るのでしょうか?
現時点で標準治療から外れている治療を受けた後では、もし何かあった時他の病院では受け入れてもらえないのではないかと不安になってしまいます。
>mayさん
RFA+放射線治療と乳房温存術+放射線治療を大規模に比較した臨床試験のデータはないと思います。少なくとも長期データはないはずなので、RFAのほうが局所成績が良いとまでは言えないはずです。
もし、その病院で成績が良いとしたら、術前に想定した(本来の切除範囲)治療範囲を超えて焼いたということだと思います。切除範囲を広くすれば局所再発率が下がることは証明されていますから同じことだと思います。
もし切除範囲と同じ範囲を焼いたのならば、理論上では完全に取り除く手術以上の局所成績が出るはずはないと思います。
局所再発した場合の治療について定まった見解はないと思います。温存術後の局所再発に対しても、再度温存して良いかどうかは微妙(2回目の術後の乳房照射はできないため、再再発の可能性は高くなります)ですので、再度RFAをしたり、乳房温存術をする場合には注意が必要です。何度再発しても乳房を残したいという希望があるなら、再度のRFAは技術的には可能だと思います。
RFA後の再発治療は、治療データも残っているのでできるならRFAを行なった病院で受ける方が良いと思います。ただ、もし全摘希望ならどこでも受けてくれるとは思います。
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