2010年7月8日木曜日

価値観の違いと事実誤認

今日、喫茶店で昼食を食べながら週刊Gを読んでいました。

その中に現代医療を否定するような記事が掲載されていました。有名大学教授(医学部も含む)などが数名、がん検診は無意味どころか有害であるような意見を述べていました。たしかに一部の検診でそういうデータがあるのも事実ですが、すべてのがん検診が有害であるかのような書き方は正しくありません。国民の不安をあおったり、不確かな情報を植え付けるのは良くないと思います。当然、反対の意見もあるわけですから、一方的な意見を載せるのではなく、双方の意見を紙上で闘わせるのが正しいマスコミのあり方ではないかと思います。

その上で例えばマンモグラフィで浴びる放射線がわずかでも有害なので検診を受けないというのも一つの考え方だと思いますし、多少の被爆を受けてでも乳癌を早期発見したいというのも一つの考え方だと思います。これはもう価値観の問題ですよね。

ただし、正しい判断をするためには正しい情報が不可欠です。この記事の中に、”ごく早期のがんを検診で発見しても大部分は悪性にならない”というようなことが述べてありました。まだ”がんもどき”理論は通用しているのでしょうか?根拠がまったくないかなり意味不明な書き方です。やむを得ない状況で手術をせずに経過観察をした早期癌の患者さんのほとんどは次第に進行していきます。多くのがん患者さんの治療に携わっている医師は、この「早期癌のほとんどは”悪性”ではないので命に関わらない。検診ではこのような”がんもどき”を見つけて治療しているだけなので意味がない。」という考え方が正しくないことを知っています。これは価値観の違いではなく、明らかに事実誤認です。

自分で乳癌だと知りながら、死んでもいいから病院に行って標準治療(手術や化学療法など)を受けるのは嫌だと我慢される方が今でもいらっしゃいます。本当にそういう信念を最後まで貫かれるならそれは価値観の違いなのでやむを得ないと思います。でもそういう患者さんのほとんどは、いずれ悪臭や出血、痛みに悩まされ、結局病院に受診せざるを得なくなります。そして早く受診しなかったことを後悔しながら標準治療(治癒は当然難しくなりますが)を受けていらっしゃるのです。こうなると結局このような患者さんたちは本当の意味での十分な知識がなかったために、事実を誤認していたんだということになります。

このような悲しい結果を招かないように、私たち医療従事者は正しい知識を広く世の中に伝えていかなくてはならないといつも感じています。

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