2010年10月1日金曜日

聾(ろう)の患者さんと手話通訳

外来で週2回行っている関連病院は手話通訳者が常駐している市内でも限られた病院であるため、私が診ている乳がん患者さんの中には聾の方が3人いらっしゃいます。その他にも検診や定期検査中の患者さんを含めるとかなりの数の聾の方を診察しています。

乳がんの患者さんは3人とも再発なくお元気に通院されていますが、乳がんの診断、手術の際はなかなか大変でした。重要なポイントについては、紙に書いてお渡しするので良いのですが、ほとんどの説明は手話通訳さんにお願いしています。手話通訳さんは慣れているとは言っても医学の専門家ではありませんので、こちらの話をうまく伝えられる場合と微妙にずれて伝えてしまう場合があります。経験の長い方は私の説明をうまく翻訳して手話で正しく伝えてくれるのですが、残念ながらうまく伝わらない場合もあります。

そういうことを長年の生活の中で知っている聾の方々は、理解するまで何度も聞いてきます。ですから手術や病理結果、術後療法の説明には普通の倍以上時間がかかってしまいます。患者さんが帰宅してからも、一度理解したはずの内容に疑問を感じて病棟に質問のFAXが届いたこともありました。

また麻酔の際には手話通訳さんはいませんので声をかけても状態の確認ができませんから専用のボードなどを用意して筆談で意思疎通を量る必要があり、麻酔医と手術室の看護師は非常に神経を使います。夜間の病棟など手話通訳者がそばにいない場合には四苦八苦しながらコミュニケーションをとって治療をおこなっています。

周術期にはそのような大変さがありますが、治療が無事終了した時には満足感が倍になります。外来でも時間はかかってしまいますが、長年苦労を積み重ねてきたためか、一定時期をすぎると驚くほどお元気になります。なかなか大変ですが、手話通訳や筆談で楽しくコミュニケーションをとって診療しています。

医学用語を手話通訳するのは本当に大変だと思います。手話通訳の方にはいつも大変なご苦労をおかけしていると思います。ですから診察が終わった時には、患者さんに”お大事に!”と言った後で手話通訳さんにも”お疲れさまでした!”とお礼を言うようにしています。

いつか自分でも簡単な手話ができるようになりたい!と思いつつ、まだ全然できていません…(汗)。

6 件のコメント:

Martha さんのコメント...

hidechin先生

医療機関での手話通訳さんの仕事は大変だと思います。


私の母が手話が出来たので小さい頃から興味もあり、以前手話サークルに入りボランティアを目指したこともあります。
聾の方の中には診察時には個人的なことだから通訳を間に入れたくないと言われるかたもありますし、微妙に通訳を介することでニュアンスが変化することもあるのだと思います。となると、医師が手話が出来るのが一番良いんですけど...

私はふだん肺機能検査もしていますが、聾の方のスパイロは四苦八苦です。説明したあとにタイミングよく肩をたたいたり...。

手術、治療となると本人の納得、理解が充分に得られないといけないので、ますます大変ですね。

医療者でも手話の勉強の必要性を感じています。
誰もが、納得のいく医療を受けられるようになると良いですね。


余談ですが、私が手話をしていた頃は今のように携帯電話は普及していなく、聾の方達の通信手段はFAXのみでした。今のように外出しても連絡が取り合えるメールは聾の方達にとってとても画期的なことだと思います。

今はサークルを辞めてしまったのですが、また時間のある時に勉強を出来れば良いなと思っています。

先生も頑張って下さい。

hidechin さんのコメント...

>Marthaさん
Marthaさんの病院にも手話通訳さんがいらっしゃるんですね。たしかにスパイロは大変そうです…。
私の患者さんの中にも手話通訳さんが診察室に入るのを嫌がる方がいます。触診中だけ離れて欲しいという方が一人、もう一人は完全に手話通訳なしで筆談での診察を希望されています。
プライバシーに関することを知られたくないという思いは健常者と同じですので当然、そう考える方もいらっしゃいますよね。
どんな手段であれ、時間をかけてでもきちんとしたコミュニケーションを心がけなければいけませんね。

Martha さんのコメント...

hidechin先生

私の職場には手話通訳さんは常在はしていないのです。
聾の方があらかじめ手配して一緒に来られることはあります。

そうでない時は、私も多少出来ますので、汗をかきながら何とかコミュニケーションを取っています。

手話通訳さんのいる医療機関が増えると良いですね。
点字の説明書なども増えるといいなぁ...と考えています。

hidechin さんのコメント...

>Marthaさん
そうですね!
点字の説明書も視覚障がい者にはあると良いですね。
ハンディキャップを持っていない健常者には、ハンディキャップを持っている人の大変さはなかなか細かいところまでは気づきにくいですから、これから社会で取り組んでいかなければならない問題だと思います。

あっこ さんのコメント...

初めまして。
私は聴覚障害を持つ乳がん患者です。
そちらのブログで新しい情報獲得でいつも読ませて
頂いております。
悲しいことですが、聴覚障害者でも乳がんになる人が
増えてきてます。
私は告知されて4年半になりますが、一通りの治療を終えて
トリプルネガティブなので今無治療で経過観察しながら
定期健診に通っています。
告知以来手話通訳を同伴して通院してますが、
主治医も積極的に筆談してくれるけど、やはり
時間がかかるのでこちらから通訳手配してますが、
プロ意識をもってらっしゃるので信用してます。
検査のある日は1人でいきますが、検査技師たちも前もって
紙に説明や注意などを書いて用意してタイミング
よくやってくれます。
多くの聴覚障害者が利用してるからなんでしょうね。
確かに通訳を間にいれたくない、プライバシーの問題だから
通訳依頼したくないという気持ちもわからなくはありません。
でも命にかかわることですからお互いに一番いい意思疎通の
方法を見つければいいのではないかと思います。

hidechin さんのコメント...

>あっこさん
コメントありがとうございます。あっこさんのまわりには慣れた手話通訳さんと協力的な医療従事者がいてくれて良かったですね。ただ医学用語などが入ると微妙なニュアンスが手話では伝わりにくいこともありますから、細かい質問などはあらかじめ紙に書いておく、などの工夫も必要かもしれません。
意思疎通が不十分だと誤解や医療過誤の原因にもなりますから、患者さんも医療従事者側も注意が必要ですね。時間をかけてでも様々なコミュニケーション手段を駆使して納得いくまで説明を受けることが大切だと思います。
まだまだ心配なことも多いと思いますがこれからも頑張りましょう。お大事に!