2011年9月17日土曜日

無料低額診療制度について

今日もこのブログに医療費が払えなくて通院が困難という方からのご相談の書き込みがありました。

失業、就職困難、離婚、などをきっかけに経済的に困難となり、無保険になったために病院にもかかれない方が増加しているように感じています。このような方ががんになってしまうと、検査、治療費が高額ですので非常に厳しい状況に陥ってしまいます。

日本国憲法第25条には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とあり、国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならないことになっています。しかし、黙っていてはこのような病院にかかりたくてもかかれないような生活困窮者に国が自ら手を差し伸べてくれることはありません。

無料低額診療制度とは、社会福祉法人や公益法人などに関する法人税法と社会福祉法などに基づいた、生活困窮者でもきちんと医療を受けられるようにするための救済制度なのですが、知らない方は非常に多いと思います。以前、新聞に取り上げられたことがありますが、そのような時くらいしかこの制度を知るチャンスはないのかもしれません。

概要を以下に示します。


<無料低額診療制度>

①内容
低所得者などに医療機関が無料または低額な料金によって診療を行なう事業で、大きく分けて二つの法律に基づいています。一つは社会福祉法人や日本赤十字社、済生会、旧民法34条に定める公益法人などが、法人税法の基準に基づいて実施するもので、もう一つは社会福祉法 (昭和26年法律第45号)に基づく第二種社会福祉事業として実施するものです。

②対象
「低所得者」「要保護者」「ホームレス」「DV被害者」「人身取引被害者」などの生計困難者(厚生労働省)。
適応基準は、病院によって異なります。「全額免除は、1ヶ月の収入が生活保護基準のおおむね120%以下、一部免除が140%以下」などです。

③適応期間
これも病院や自治体によって違うようです。1回のみの治療ですむような軽い症状にしか適用しない東京都の某区のようなところから、無料診療の場合は、健康保険加入または生活保護開始までの原則1ヶ月、最大3ヶ月(一部負担の全額減免と一部免除は6ヶ月)などを基準にしている病院まで幅がありますので事前に確認する必要があります。いずれにしてもこの制度は、生活が改善するまでの一時的な措置であることが原則です。

④制度を利用できる病院の条件
第二種社会福祉事業に基づいてこの制度を行なう場合には、都道府県知事に届け出を出して認可を得る必要があります。認可を受けるための条件として、生活保護を受けている患者と無料または10%以上の減免を受けた患者が全患者の1割以上などの基準が設けられていますが、厚生労働省は「都道府県の状況を勘案して判断する」としています。更に、医療機関には、(1)生計困難者を対象とする診療費の減免方法を定めて、これを明示すること (2)医療上、生活上の相談に応ずるために医療ソーシャル・ワーカーを置くこと (3)生計困難者を対象として定期的に無料の健康相談、保健教育等を行うことなどいくつかの条件が義務付けられています。
どの病院でこの制度の利用が可能かを知るためには、自治体の役所に問い合わせをするのが良いと思います。とりあえず調べるてみるのには、ネット検索も便利です。「自治体名(札幌市など)」と「無料低額診療制度」で検索してみて下さい。


いま現在、私の外来に通院中の患者さんの中にもこの制度を利用されている方が3人ほどいらっしゃいます。原則的な適用期間はありますが、実際は働いても働いても生活していくのがやっとで、この制度を継続している方もいらっしゃいます。病気や介護などで働くことができない、働きたくて努力していても職が見つからない、職が見つかっても収入が少なくて保険料も支払うことができない、という人々には何の罪もありません。憲法25条を遵守するために、国と自治体はもっとこのような人々に目を向けて欲しいと思っています。

12 件のコメント:

あき さんのコメント...

いつも拝見しています。
本件とは関係のないご相談でコメント欄に記載させていただくことをご容赦ください。
現在ノルバテックスのみのホルモン治療中です。主治医からは服用中の妊娠は禁忌ときいていますが、可能ならば将来的に妊娠を希望しており、ノルバテックスをやめてどのくらいの期間をおけば妊娠が可能なのかをお伺いできればと思います。お忙しいなか恐縮ですが、お手隙の時にコメントいただければ幸いです。よろしくお願い申し上げます。

hidechin さんのコメント...

>あきさん
はじめまして。
ノルバデックス(タモキシフェン)は催奇形性のリスクがありますので服用中には妊娠を避けるべきと言われています。
タモキシフェンの代謝産物が完全に体内から検出されなくなるためには約2ヶ月かかると言われていますので、タモキシフェン終了後、2ヶ月は妊娠を避けた方が良いと思われます(以上、「乳癌診療ガイドライン①治療編 2011年版」より)。
以上です。

あき さんのコメント...

早速のお返事、ありがとうございます。
2か月と伺って少し安心しました。

先生のブログを拝見して様々な知識とともに勇気も頂いております。
この場をお借りして感謝申し上げます。

hidechin さんのコメント...

>あきさん
どういたしまして。
これからもよろしくお願いいたします。

nori さんのコメント...

はじめまして。いつも読ませて頂いております。
私も本件とは関係のないご相談で申し訳ありません。

現在、手術前抗癌剤治療中です。癌が2.5×4.5センチと大きかったことから術前に抗癌剤をし癌を小さく出来れば良いとの事で術前抗癌剤をすることになりました。うまく小さくなれば、温存手術も可能であるとの事でした。
今少し時間がたち考えていくうちに、たとえ小さくなったとしても全摘手術をした方が、再発という点では安心なのではないかと思うようになりました。まだ、小さくなるかどうかもわからないうちからこんな事を考えても仕方がないのですが、色々と気になってしまいます。
そして、全摘であるならば術前抗癌剤治療は無駄だったのかな?などとも考えてしまいます。
この2点についてお考えをお聞かせ頂けるとうれしいです。
宜しくお願い申し上げます。

hidechin さんのコメント...

>noriさん
術前化学療法を行なう目的は、腫瘍を縮小させて切除不能だったものを手術可能にしたり、乳房温存術の適応外だったものを可能にするという点にあります。
生存率に関しては術前に行なっても術後に行なっても変わらないことが今までのデータからわかっています。
術前化学療法を行なった上で乳房温存術を行なうことに関しては、ガイドライン上では推奨グレードB(術前化学療法で良好に縮小した浸潤性乳管がんに対する乳房温存療法は勧められる)となっています。ただし、同心円状に縮小せずにモザイク状にがんが遺残している場合には取り残しの可能性が高くなります。実際、術前化学療法後に乳房温存術を行なった場合の乳房内再発率は高くなるという報告もありますので、その長期的な予後に関してのデータはまだ十分ではないと言われています。

ご質問の答えは以上からおわかりいただけると思いますが、局所再発がご心配なら全摘の方が可能性が低いのは確かです(これは術前化学療法をしていなくても同様です)。予後(遠隔転移で命に関わる確率)に関しては、データが不十分なのでなんとも言えません。
もう一つ、全摘をするなら化学療法が無駄だったかどうかは病理所見がわからないのでお答えできません。最初に手術をしても化学療法が必要な状態(トリプルネガティブやHER2陽性乳がんなど)であれば、どっちにしても術後に化学療法をするのですから無駄とは言えません。

以上です。なお、ここでお答えする内容には限界があります。きちんと通院して治療を受けているのですから、まずは主治医に疑問点についてお聞きになることが大切だと思いますよ。
それではお大事に。

nori さんのコメント...

御返事ありがとうございます。

よくわかりました。

主治医の先生も信頼して、いろいろと質問はするのですが、その場では上手く尋ねられなかったり、考えているうちに疑問が出てきたりで、思わず書いてしまいました。

ありがとうございました。
また、宜しくお願い申し上げます。

てつこ さんのコメント...

<てつこよりお礼と報告>

先生、ありがとうございました。
とても有難く、お礼申し上げます。

本日は何とか再診の約束を果たすべく病院に向かい、今しがた戻ってきました。

電話が掛かってきた追加検査の件は今後の治療方針を決める為ER/PR/Ha2を測る為の検査という説明を聞きました。
1/2浸透性乳管癌、弱好酸性腫瘍細胞が索状胞巣を形成し間質増生を伴い脂肪織まで浸透性に増殖している。ICLを細胞内に認める。核異型性は中等度、分裂像は軽度。とのこと

癌であることには間違いがないので、今後をどうするか?と問われました。
しかしHide先生にご示唆頂いた低額診療制度についてターゲット機関の候補をまだ見つけられていなかったので、このままMR/CT・手術と進んでいいのか?費用の問題をクリアしないままの次の予約に躊躇していると、院内のソーシャルワーカーの方に相談することになり「低額診療制度が受けられる病院はないか?」と伺うもお金を払わないで受けられる医療はない。と言われ、帰ろうとした私でしたが気を取り直して、(こちらのHPを見る前に考えていたこと)「癌研だったら低額所得者にも敷居が高くはないのではないだろうか?電話を入れるも2日間受付けで手間取り結局目的を果たせぬまま断念し通りすがりのこの病院で検査を受けることになった経緯を話すと、癌研に電話を入れてくれました。
紹介状を頂いて診察予約をしたわけではなく、初診を受ける前の相談です。本日診断頂いたまま順調に当該医院で診療を進めれば明後日CTの予定でしたが仕方ありません。
早く診療を進めたい気持ちで張り裂けそうですが、明かりは見えるのでしょうか・・
これから情報を集めるつもりです。

また関係ない愚痴になってしまいました。
普通の経済状態だったら癌研有明に行きたい気がします。考えがまとまらないまま書いて済みません。お忙しいのに目を通していただけただけでも嬉しかったです。
元気になったら何か社会へお返しできたらと思っています。
先生のご健勝とお幸せをお祈り申し上げます。
ありがとうございました。

hidechin さんのコメント...

>てつこさん
てつこさんは東京にお住まいですか?癌研有明病院は乳腺外科領域においては最高の病院の一つです。私が自信をもってお勧めできる施設です。ただ、無料低額診療は行なっていませんし、てつこさんのような状況にある患者さんにとってベストの病院であるかどうかはなんとも言えません。
ちなみにネット検索して東京都内の無料低額診療制度が利用できるリストが載っているブログを見つけました(http://blogs.yahoo.co.jp/dvsn_homepage/52333038.html)。実際に確認できたわけではありませんので、ご自身で電話ででも御確認願います。この中の東京都内の施設で症例数の多い施設は三井記念病院、東京都済生会中央病院でしょうか?
良い解決法が見つかることをお祈りしています。

匿名 さんのコメント...

ヒデチン先生。
お久しぶりです。てつこです。

その節は本当にありがとうございました。
おかげさまで後悔のない病院選びができ、
標準治療は終えることができました。

お約束通り、非常に微力ながら皆様のお役にたてるよう心に留め日々を送っております。

先生にお会いできる日もあるかもわかりませんね。

どうぞ、お身体を大切にご活躍くださいませ。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(てつこさん)
お久しぶりです。無事治療を終えることができて良かったですね!病院選びでご苦労されていましたが、納得いく病院選びができてなによりです。
まだまだ安心はできませんが、笑顔を忘れないように過ごしてくださいね。それではお大事に!

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(てつこさん)
お久しぶりです。無事治療を終えることができて良かったですね!病院選びでご苦労されていましたが、納得いく病院選びができてなによりです。
まだまだ安心はできませんが、笑顔を忘れないように過ごしてくださいね。それではお大事に!