2011年11月17日木曜日

乳管内乳頭腫1 概論・病理

今年はなぜか乳管内乳頭腫の手術症例が多いようです。特に診断や切除範囲に悩む乳頭腫症例が今年は連発です。MRで多発する腫瘤があったり、大きめの腫瘍で乳管が閉塞しているために乳管造影をしても末梢まで写らないために乳管の走行がわからなかったり、MRで拡張乳管がとても広く写っていたり、予想と違う方向に延びていたり、細胞診で良悪の判定に悩む症例だったり、梗塞を起こしていて奇妙な画像所見を呈していたり、様々な症例を経験しました。

私のこのブログの中で、もっともコメントが多いのは「乳管内乳頭腫と乳癌」(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/03/blog-post.html)の文章です。現在68件もの書き込みがあります。やはり症例も多いということもありますが、この疾患独特の診断や治療の難しさがその理由なのではないかと思います。そこで今回は乳管内乳頭腫についてまとめてみたいと思います。今回はまずその概論と病理について書いてみます。

乳管内乳頭腫(Intraductal papilloma: IDP)は、比較的太い乳管内に発生することが多い(細い乳管にもできますが)良性腫瘍(ポリープ)です。時に腫瘍の一部から出血するために、血性乳頭分泌で見つかることが多い疾患です(血性乳頭分泌を起こす原因疾患の中で一番多い)。出血量が多かったり、出血して間もない場合は、赤、または暗赤色(黒に近い)を呈していますが、時間がたつと次第にオレンジから黄色の透明な分泌物になります。ただ、超音波検査で偶然腫瘤を指摘されて細胞診で診断される分泌を伴わないIDPもあります。また、嚢胞の中に発生した(または分泌物で嚢胞を形成した)乳頭腫を「嚢胞内乳頭腫(Intracystic papilloma)」と呼ぶことがありますが、腫瘍の性質としては同じものです。

大腸ポリープは大きくなるとがん化する確率が高くなりますが、IDPは原則的にはがん化しないと考えられています(先日の症例カンファレンスでも提示されてい
ようなきわめてまれにIDPの 一部ががん化したのか迷う症例もあるようですが、一般的には考えなくても良いと言われています)。ただ、IDPの近傍にがん(主に非浸潤がん)が合併することが多いと言われており、その頻度は約10%と言う先生もいらっしゃいます。私の経験上もそのくらいはあるような印象です。

IDPの大きさは様々です。画像で確認されないくらい微小なうちに分泌で発見されるものから分泌を伴わなわず、比較的大きくなって診断されるものまであります。私自身は、4cmくらいの嚢胞内に発生した3cmくらいの乳頭腫を経験したことがあります。

病理学的な特徴は、肉眼的には乳頭状の構造を呈しており、乳管壁に連続する茎を伴っています。茎の中には血管を有しており、これが破綻すると出血として乳頭から分泌されます。同一乳管内に限らず、多発することもよくあります(両側乳房に発生して切除した患者さんもいらっしゃいます)。組織学的には、乳管上皮細胞と筋上皮細胞の2層の細胞から乳頭構造が形成されているという特徴(二相性と呼びます)があります。乳腺症で見られるようなアポクリン化生、悪性所見に似た偽浸潤、まれに梗塞などを起こすこともあります。他にも細胞所見や構造の所見で良悪を判断しますが、非浸潤がんでも一部二相性を有していることがありますので鑑別が難しいことがあります。IDPなのか、非浸潤がんなのかは、一般の方が考えるほど簡単に診断できないこともあるのです。診断に時間がかかったり、次から次へと検査を重ねていくことがあるのはこのためです。ですから乳管内病変(IDPや非浸潤がん)の正確な診断のためには、乳腺外科医による慎重かつ適切な検査の判断と経験豊富な病理医の目が必要なのです。

10 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

43歳1児の母です。乳管内乳頭腫で細胞診では今のところ良性なのですが、造影剤を使ったMRI結果、画像からは悪性を疑うと画像診断の先生はおっしゃいます。2センチに大きくなっているので手術を考えているのですが、乳房の形が変わるのは了承してほしいとのことで、そんなに切り取らなければならないのでしょうか?

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
私は実際に検査結果を見ているわけではありませんので、どのくらいの切除が必要なのか、どの程度変形する可能性があるのかは正確にお答えすることはできません。どの程度悪性を疑うのかによっても切除の範囲は異なります。ですからご心配なお気持ちはわかりますが、そのご質問は担当医にお聞き下さい。
良性だと良いですね。お大事に!

匿名 さんのコメント...

こんばんは、お忙しい中お答えくださりありがとうございます。かかりつけの先生、総合病院の手術する先生、画像診断の先生とそれぞれで、とまどっています。3日後に組織診の予定です。先生のコメントを投稿後にたくさん読ませていただきました。気づかず重複した内容で申し訳ありませんでした。境目が難しいんですね…担当の先生は安全をみて大きめに取るらしいのです。私的には良性なら最少にとどめたい所なのですが、あまりそのあたりを聞きにくい感じなのです。納得がいくまで先生と話してみようと思います。ありがとうがざいました。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
そうですね。それが一番大切だと思います。
それではお大事に!

よちぇ さんのコメント...

初めて投稿致します。
コメントの多い乳管内乳頭腫に関する事なので、とても恐縮ですが、
もし良ければ読んでいただきたく思います。
私は、45歳2児の母です。
血性分泌により、マンモ、エコー検査の上、乳管内乳頭腫と診断され、
ひと月ほど前に 乳管腺葉区域切除 を行いました。
その病理の結果がとても微妙のようで、乳腺外科の先生も判断に困っているような感じでした。
病理結果を引用します
「病理診断:Intraductal papilloma and DCIS,left breast
所見:左乳腺乳頭内側部より切除された50×10mm大の検体で#A〜#Oと15切片に標本化されている。
組織学的には長軸方向のほぼ全長に渡って(主病変は#E,F,G,H)
拡張性の乳管内で増生する通常のintraductal papillomaの像を認める。
また、papillomaとは別に異型細胞の乳管内増殖からなる微小病変が、
sporadicに多発してみられ(#C,G,H,I,J,K,L,Nなど)、
これらはintermediate grade相当のpapillary DCISと考えられる。
なおDCISについては切除断端(+)である。
〈Double check〉
標本拝見しました。
基本的にはIntraductal papillomaで、周囲のDCISに見える部分もこの続きに見えます。
後者が悪性かどうかは意見の分かれるところと考えます。
個人的にはAdenosisでもよい印象です。
しかし、DCISと考える病理の先生もおられますので、厳重にFollowして下さい。」

「追加切除を行うか、様子見で年内に一度検査に来てもらうかなんだけど、取り敢えず様子見でよいかな?
ゆっくり考えてみて」と先生は仰ってます。
次の診察の約束もなく、私が決断してアクションを起こさなければいけないのだと思いますが、
どうしてよいのか判らず、悩んでおります。
疑問として、
①DCISでも乳頭腫でも、断端陽性ならば、腫瘍を取りきれていないということでしょうか?
ならば、それを体内に残しておいても問題ないのでしょうか?
②病理をもう一度別の機関に検査をお願いする事はできないのでしょうか?
何もわからない状態での選択にとても悩んでおります。
どうか、お知恵をお貸し下さいますようお願いいたします。

hidechin さんのコメント...

>よちぇさん
はじめまして。
非常に病理診断が難しいケースのようですね。実際に病理標本を見ていないのでなんとも言えませんが、単一の乳管内乳頭腫がそれほど広範囲に進展しているのは少し変な気もします(多発しているというのであればわかりますが)。乳管内乳頭腫や非浸潤がんと似たような病変で、乳腺症の範疇に含まれる乳管乳頭腫症であれば理解できます。ただ乳管乳頭腫症に非浸潤がんが合併することもありますので、そのあたりの判断はかなり難しいのです。
ご質問にお答えします。

①断端陽性であれば病変が残っている可能性が高いということです。乳管内乳頭腫や乳管乳頭腫症であれば慎重に経過観察でも良いと思いますが、非浸潤がんであれば追加切除を考慮しなければなりません。

②もし他施設での診断をご希望でしたら、坂元記念クリニックをお勧めします(http://www.a-bp.net/)。日本の乳腺病理の第1人者である坂元先生や秋山先生を始め、信頼できる乳腺病理医がそろっているからです。費用は患者さんが希望して病院からプレパラートを借りて送るセカンドオピニオンの場合と、病院側がコンサルテーションとして送る場合とでは異なります。主治医の先生にご相談なさってみて下さい。

以上です。

よちぇ さんのコメント...

よちぇです。
とても早く回答いただきありがとうございます。

坂元記念クリニックのHP拝見させていただきました。
病理のセカンドオピニオンもできるのですね。
結果がわからなければ、切除した意味もなく、
また今後の方針も定まらないので、
早速、乳腺外科の先生に相談しようと思います。
ただ、セカンドオピニオンは高額なんですね…

お忙しい中、本当にありがとうございました。

hidechin さんのコメント...

>よちぇさん
主治医の先生がコンサルテーションに同意してくれるといいですね。
それではお大事に!

匿名 さんのコメント...

こんにちは。
初めてコメントを書きました。
私も診断困難な症例のようで、質問があります。

私は45歳1児母です。家族歴に癌やセイカツシュウカンビョウハありません。
既往歴に子宮筋腫があります。

健診で左単管性の血性分泌物を指摘され、セカンドオピニオン含め2カ所を受診したところ、乳管内乳頭腫(嚢胞内乳頭腫)だろうとのことでしたが、細胞診針生検では悪性細胞は出ていないものの 、あまりに早期過ぎてDCISを否定できないことと、エコーやMRIなど画像所見で同じくグレーゾーンのため
「フォローか手術か、どうする?」と聞かれました。

分からないから行っているのに先生に聞かれて困っています。

手術を決めてるなら、フォローをしばらくしてから手術する、というそのフォローはいらないし、
フォローするなら変化はないのにやっぱり手術をとはならないから、今決めてくれとのことでした。


そこで質問ですが、普通、フォローを決めた場合はどうなったときに手術に踏み切るのでしょうか?

診断が困難だった症例で後で結局悪性が見つかった症例は経験上どの程度ありますか?

フォロー中繰り返し検査してもグレーならどうするのかと。

嚢胞は複数ありますが、症状の原因病巣を手術後もほかの場所に悪性腫瘍ができることはありますか?

乳頭内乳頭腫に併発する悪性腫瘍はどんな種類がありますか?
それぞれの悪性度や浸潤転移度などを

教えていただけますでしょうか?

個別のしょうれいは専門の先生お二人に見てもらっても難しかったので、一般的なこちをいろいろな可能性を考えて、幅広く聞いてみました。

よろしくお願いします。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
初めまして。
フォローになった時に手術に踏み切るタイミングは、腫瘤が増大したり形状に変化が見られた場合、血性分泌が持続する場合などです。経過観察後に切除して悪性だったケースは数例経験があります。ただ通常、最初はこまめに変化を見ますので大事に至ったケースは経験ありません。しかし不安が強いのであれば切除してもらう方が良いのではないですか?

もちろん今回切除したからといって他の場所にがんが発生しないようにできるわけではありません。乳腺がある場所には反対側も含めて将来的な乳がん発生の可能性はあります。

乳管内乳頭腫切除時に偶然併発する悪性腫瘍のほとんどは非浸潤性乳管がんです(術前に画像で指摘されず、乳管腺葉区域切除術を施行した場合)。わずかでも浸潤があれば浸潤性乳管がん(乳頭腺管がんなど)と診断されますのでこれも可能性があります(非浸潤性乳管がんが時間が経って乳管外に浸潤したものが浸潤性乳管がんです)。非浸潤がんは完全切除すれば基本的に再発しない超早期のがんです。浸潤性乳管がんは浸潤径や悪性度(ホルモンレセプターやHER2、核異型度など)、リンパ節転移の有無などによって再発率は異なります。乳管内乳頭腫切除後の経過観察中にもがんが併発して診断されることはあります。この場合も乳管がん(非浸潤性乳管がんや浸潤性乳管がん)のことが多いです。

以上です。主治医とよくご相談の上でご判断ください。
それではお大事に。