2011年11月22日火曜日

命の値段

先日英国国立医療技術評価機構(NICE)が、ハラヴェンを保険適用対象として推奨しない最終ガイダンス案(FAD)を発表しました。NICEはその前にもフェソロデックスに対して同様の勧告をしています。

NICEにおいては抗がん剤を推奨する場合、3カ月以上の延命効果があることなどを条件としているそうです。今回ハラヴェンの治験で示された延命期間は2.7カ月と条件を満たしていませんでした。既存療法より副作用が多いことも指摘されています。そしてコスト面においては、生活の質を加味した生存年(QALY)の1年延長に必要な費用(ICER)は、治験で比較した治験医師選択療法よりも68600ポンド高く、コストベネフィットに見合わないと評価されました。

このニュースを見て、いろいろ考えさせられました。


人の命の長さ(時間)に値段などつけることができるのだろうか?

平均2.7ヶ月の延命は患者さんにとって価値のないものなのだろうか?

「保険適用としない」というのは「使用を禁止する」と同意語ではない→お金のある人は全額自己負担で受けなさい、お金のない人はあきらめなさい、ということを意味しているのだろうか?


皆さんはどう考えますか?

世界的に財政事情が厳しい状況を考えると、できるだけ医療費の公的負担を減らしたいと考えるのはわかります。新薬、特に分子標的薬は非常に高額です。まったく意味のない薬剤なら高額な治療は明らかな無駄です。しかし、その判断のために命に値段を付けてしまう今の医療界の考え方にはどうしても違和感を覚えてしまいます。費用が高い安いではなく、本当に患者さんにとって有益なのかどうかを判断する術は他にはないのでしょうか…。

天国にいる金子明美さん( 以前ここでも取り上げました http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/02/blog-post_16.html )はどう思っていらっしゃるのでしょうか?ドキュメンタリーの中で金子さんがだんだん経済的に追い込まれていったときに、たしか「金の切れ目が命の切れ目」というようなお話をされていたように記憶しています。金子さんがこのとき受けていた治療は、分子標的薬のアバスチンを使用したレジメンだったと思います。FOLFOX4という標準治療に対するアバスチン追加の延命効果は、2.1ヶ月です(E3200試験)。これを短いと思うかどうかは患者さんそれぞれの価値観や状況によって変わるのかもしれません。しかし、2.1ヶ月の延長でも貴重だと思う患者さんが治療を選択できなくなってしまうのは非常に酷な話です…。

保険診療で行なっても高額なのが分子標的薬も含めた化学療法です。全額自己負担で払える人などごく一部だと思います。日本がこのような欧米のやり方を猿真似するようなことだけはなんとか避けてもらいたいと心から願っています。

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