2012年2月7日火曜日

胸水・腹水の治療とCART

乳がんの再発の一つに胸膜・腹膜への再発があります(がん性胸膜炎・腹膜炎と言うことが多いです)。頻度としては圧倒的に胸膜のほうが多いのですが、浸潤性小葉がんなどではたまに腹膜に再発することがあります。胸膜に再発すると胸水、腹膜に再発すると腹水がたまってきて症状を呈するようになります。

自覚症状としては、胸水がたまると呼吸苦や咳が出ますが少量では無症状のこともあります。腹水は多量になると腹部膨満感、食欲不振や食べ物の通過障害などが現れます。

治療は原疾患、つまりがんに対する治療(抗がん剤やホルモン剤など)が基本となります。胸水・腹水の量が少なくて治療に反応した場合は自然に減少することもあります。また利尿剤もよく使われます。

量が多い場合はドレーンという管を入れて排液を行ないます。胸水の場合は比較的早い段階で排液を行なうことが多いです。胸水の場合は一度抜くとしばらくたまって来ないこともありますし、癒着療法という治療が有効な場合もあります。しかし腹水の場合はなかなか簡単ではなく、抜いてもすぐにたまってしまうことが多い印象があります。

腹水の中には血液から漏出したタンパク質などの成分が豊富に含まれています。ドレーンを長期に留置したり繰り返し多量の排液を行なうと血液中のタンパク質が足りなくなって低タンパク血症になってしまい、そのことがさらに腹水を増加させる原因になってしまいます。ですから腹水の場合は簡単には穿刺排液はしません(検査目的で行なう場合はあります)。

しかし多量の腹水がたまった状態で過ごすのは患者さんにとっては苦痛なことです。一度抜いて楽になることがわかるとまた抜いて欲しいと思うのは当然の心理です。しかしそれを繰り返すと栄養分が失われて弱ってしまうのです。ここが今までの治療のジレンマでした。

最近、このジレンマを解決する手段が保険適応になって使えるようになりました。”CART(腹水濾過濃縮再静注法)"という方法です。これは排液した腹水を特殊なフィルター(腹水濾過器)を通すことによってがん細胞や細菌などを除去し、もう一つの装置(腹水濃縮器)で濃縮したあとで静脈から点滴で戻す方法です。これだと大切なタンパク質などの栄養分を回収することができます。先日入院患者さんに初めてこの装置を使ってみました。患者さんは大変楽になりましたし、今のところ体力や栄養状態の低下はないようです。とてもありがたい治療法です!

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