2009年10月28日水曜日

アメリカにおける乳房温存術後の局所再発率〜最新報告

最近JAMAという雑誌に発表された報告を読んで驚きました。

Memorial Sloan-Kettering Cancer CenterのMonica Morrow氏の報告によると、2005年6月~2007年2月の間に乳房温存術を受けた1,468人(全体の75.4%)の患者さんのうち、後に再手術を必要としたのは37.9%に上ったということです。内訳としては26.0%が乳腺腫瘤摘出術で、11.9%が乳房切除術だそうです。すべてが局所再発かどうかは不明ですが、最低でも乳房切除術を行なった11.9%は再発であると思われます。

今までに発表されていた乳房温存術の局所再発率は、欧米でも日本でもおよそ年率約1%(つまり10年で約10%)ということでした。切除断端陰性にした場合にはさらにその半分くらいの再発です。それと比べるといかにこの報告の局所再発率が高いかがわかると思います。

2-4年程度の観察期間で最低でも11.9%!!信じられない高率です。

なぜこんなに高い局所再発をきたしたのでしょうか?これは今の日本の乳腺外科治療にも共通する問題点のせいだと思います。

乳房温存術が標準手術となってから、もうかなり年月が経過しました。最初は慎重に症例を選び、完全切除を目指して一定の距離をおいて切除していました。その分、対象症例は限定され、切除範囲が広くなるために変形も強かったのです。

しかし、整容性が過度に重視されるようになったために切除範囲をぎりぎりにしたり、対象症例を増やすために、術前化学療法施行施行後に広がりの評価が不十分なまま温存手術に踏み切ったりということが増えているような気がします。また、放射線治療が局所再発の予防に有効であることを過信しすぎて、かなり癌が残っている可能性が高いのに乳房切除をせずに放射線治療で経過をみたりしていることも局所再発が増えた原因のような気がします。

この報告はアメリカに限った話ではないと感じています。アメリカ的な考え方に流されつつある、今の日本の乳癌治療に対する警鐘であるという認識をもって患者さんに向き合うべきではないかと私は思います。

2 件のコメント:

きみちゃん さんのコメント...

hidechin先生
ご無沙汰しております(*- -)(*_ _)ペコリ
しばらく就活してたりしてばたばたしてました。
乳がんに限らず、再発転移のリスクあるがん患者を受け入れる再就職の雇用環境は非常に厳しい現実だと改めて思い知らされました・・
この数ヶ月間の就活で12社応募中採用はたった2社でした。

がん患者の社会復帰は職場の理解無しでは実現できまでせん。
一旦がんを患い、病気の為に職を失ってしまった者がまた職場に復帰し、同じ水準の収入を得ることは非常に困難な状況です。

定期的な検査や治療の為の通院日を確保するために、収入のことより、まず何より融通の効く職場を第一条件に選ばざるを得なくなる状況になり、そういう職場だと病気になる前の重要なポジションでの勤務は困難になってしまい、雇用形態も安定している正社員は難しく、収入も減り、いつ解雇されてもおかしくないとても不安定な雇用形態の中で働き続けないといけない状況になっているのが現状です。

私も通院事情を話した上での採用2社でしたが、収入は前職の4割減となってしまい、雇用期間も4ヵ月半の短期労働契約の職場しか
雇ってもらえませんでした。
来春はまた無職になってしまうので、また地獄の就活しなければなりません。

がんになってしまった以降の生活における「QOL」は確実に低下してしまいます・・
これは否めない現実です。

がんになる前の生活水準を保てるような暮らしは難しいです。

このがん患者の就労問題については最近よくマスコミにも取り上げられているようです。
社会復帰にむけて辛い治療を乗り越えてきたのに、もう大丈夫だから就労意欲を示しているのに、その治療に有した履歴書における「空白の期間」・・これがある故に、理解を示さない会社が多いようです。

もっと活発に意見を出し合って、社会にがん患者の声を聞いてもらい、訴え続け、問題解決の足がかりになってほしいです。

国民の3人に一人、2人に一人の割合でがんになる世の中なのに、この社会のがん患者に対する理解はまだまだ浸透しておりません。
まさか自分が・・がんになるわけないと思っている人がまだ多いからでしょうね。
身内や自分自信ががんにならなければ、がん患者の苦しみはやはり理解は難しいのでしょう。
記事と関係ない愚痴になってしまって申し訳ございません。


>今の日本の乳癌治療に対する警鐘であるという認識をもって患者さんに向き合うべきではないかと私は思います。

でも今回私が言いたかったことは、まさに、治療に対しての、将来の再発転移の可能性にも言及したかったので・・

これこそいかに、患者が主治医と信頼関係をもって今後の長きにわたる治療方針を納得いくまで受け続けることができるか・・
患者一人一人生活環境は違いますので、その患者のこの先10年間を見据えた治療方針というのを話しあえることができるのは、主治医と患者の信頼関係なしには語れませんものね。

告知後、辛い思いして治療し、そして社会復帰できるまで回復してせっかく苦労して少しの間でも雇ってもらったのに、再発や転移の為にまた職場離脱になってしまうなんていう状況はなるべくなら回避したいです。

なので、再発転移の最も少なくなるような、最善の有効な治療方針を提供していただき、患者も納得の上、治療してもらいたいと思います。

後々のことも考えて、乳房温存か切除か・・
これは女性であればとても悩まざるを得ませんよね。。患者はいろんな局面において治療の選択の難しい判断を強いられます。
いろんな要因を踏まえて、乳房温存に補助的治療を加えれば、乳房切除と同じくらいの再発率になるというケースと予測されるのであると説明があれば、多くの女性は乳房温存を望むでしょう。

しかし、生きていく上でも、生きるために働いていく環境を少しでも安定できるようにするためにも、最善の治療法でもって、しっかり初診からの再発率のことを考えての今後の治療方針をたてるというのは、大変重要なことだと認識しております。

乳がんは長いスパンで治療をしていかないといけない病気ということを患者はしっかり認識した上で、治療しながら生きていく覚悟が必要です。
私は今回の社会復帰に関して自分のがん患者という立場がこれほどまで就職するのに厳しいものかと・・思い知らされました。

最低でも10年は経過観察が必要ですし、GOLを低下させず、うまく乳がんと付き合っていけるような、なるべく負担のない生活ができるような治療方針で患者さんが過ごしていけることを一番望みたいです。

大変長くなりました<(_ _)>

hidechin さんのコメント...

きみちゃんさんへ

お久しぶりです。就職活動大変そうですね。

雇用する側にも理由がありますから(特にこの就職難では、残念ながら雇用する側に選択権があるのが実情です)、なかなか難しい問題ですよね。

これは患者さん(就労希望者)と会社(雇用者)の問題だけでは解決しないと思いますよ。やはり、そのような患者さんに就職先を提供した場合には会社側に税制上の優遇措置を行なうなどの社会的なバックアップが必要なんだと思います。

きみちゃんさんが書かれているように同じような苦労をしている患者さんたちの力と声を合わせて、国会に意見書や署名を提出してみるなどの活動につながると打開策は見いだせるかもしれませんね。
(mixiにも同じコメントを書きました)

>いろんな要因を踏まえて、乳房温存に補助的治療を加えれば、乳房切除と同じくらいの再発率になるというケースと予測されるのであると説明があれば、多くの女性は乳房温存を望むでしょう。

→乳房温存術が標準的治療になった根拠として、乳房温存術と乳房切除術の間では生存率に差がない(局所再発率には差があります)、という米国とイタリアで行なわれた大規模な比較試験の結果があります。しかし、局所再発率が非常に高くなると、生存率の悪化にもつながることが推測されていますので、今回の報告はそういった点においても心配です。

就労に関しては、局所再発も遠隔再発も影響がありますが、特に遠隔再発の治療は長期にわたりますのでより大きな影響になります。就労に限らなくても、遠隔再発率が悪化するような治療選択は避けるべきであるのは当然ですので、もう一度、今の乳房温存の適応や術式が生存率に影響しないのかという再検討が必要だと思います。