Lancetの2010年2月13日号に、「早期乳がんの術前にMR検査を追加しても再手術率は改善しない」というイギリスのCOMICE試験の報告が掲載されました。
今までの通説では、視触診、マンモグラフィ、超音波検査に造影MR(またはCT)を追加することによって乳房温存術後の断端陽性率(癌の遺残率)を低下させることができるとされてきましたので、まったく正反対の報告です。
この臨床試験の概要は以下の通りです。
対象・方法:トリプルアセスメント(視診/触診、X線マンモグラフィ/超音波、穿刺吸引細胞診/コア生検)施行後に乳腺部分切除術が計画され、生検で原発性乳がんが証明されている18歳以上のイギリス人女性1623例。これらの症例をトリプルアセスメントにMRIを追加する群(816例)とトリプルアセスメントのみの群(807例)に無作為に割り付けた。
主要評価項目:割り付け後6ヵ月以内の再手術の施行率、もしくは初回手術時の病理検査で切除術は回避可能との評価(切除断端の陰性率を意味すると思われる)。
結果:再手術率は、MRI追加群 19%(153/816例)、MRI非追加群 19%(156/807例)であり、両群で同等であった(オッズ比:0.96、p=0.77)。
結論:「早期の原発性乳癌の診療にMRを追加しても、再手術率は低減しない」「高価な検査法であるMRが不要なことが確認されたため、医療資源の観点から国民保険サービス(NHS)にはベネフィットがもたらされる。NHSの利便性の改善に役立つ可能性がある」
時として欧米の臨床試験結果は、日本国内の実臨床とかけ離れた結論が出ることがあります。今回の結果もそのまま日本人に当てはめることはできないかもしれません。理由は以下の通りです。
①日本では(施設によりますが)、MRで広範な乳管内進展が疑われた場合には、最初から乳房温存術を避け、乳房全摘を選択しているケースが多い可能性がある(つまり、MRによって無益な乳房温存術施行を回避できているため、MRは有用)。
②大きな欧米人の乳房に対しては、MRで進展範囲がわかっても適切にその範囲を切除することは日本人に比べると難しい可能性がある。
③そもそも日本における標準的な乳房温存術の切除の方法と欧米のそれとは若干異なっている(欧米では乳房が大きいこともあり、日本のようなケーキを切るように乳腺を垂直に切除するような方法はあまり行なわれていないため断端から距離を取るのが難しい→ただし、最近では美容的効果を重視する傾向が強くなってきたため欧米式の切除法を行なう施設も増えてきている)。
少なくとも私たちの施設では、MRを導入してから断端陽性率と再手術率は明らかに低下しています。どんな優れた診断装置があっても、使い方を間違えば誤った結論が出る可能性があります。美容的な要素も大切ですが、やはり根治性を損ねないようにするのが大前提だと私は考えています。
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