2011年8月9日火曜日

triple negative乳がんの盲点

triple negative乳がんの再発(肺転移)として治療をしている患者さんがいます。この患者さんは、原発巣のホルモンレセプターが陰性だったため、術後に化学療法を行ないました(この当時はHER2検査は全例には行なっていませんでした)。

その後肺転移が見つかったため、HER2染色を行ないましたが陰性の結果だったため、”triple negative"と判断されたのです。症状のない転移であり、患者さんの希望もあったため、外来での内服治療を行ないました。最初はXC療法を行なったところ、PR(部分寛解)となりましたが、1年弱で再燃したためDMpC療法に変更したところ、完全に転移巣は消失(CR)し、この7月で3年が経過しました。

triple negativeにしては、ずいぶん緩徐な経過をとっているとは思いましたが、XC療法やDMpC療法がtriple negativeにも有効な場合があることは報告されていたため、この患者さんもそうなのだと思っていました。

ただ昨日ふと、初回手術の頃はホルモンレセプター陽性の判定が10%以上だったことを思い出したため、古いカルテを取り寄せ、病理科に再度判定を依頼してみました。その結果、この患者さんのホルモンレセプターは、10%未満の細胞が弱く染まっていたという結果だったため、以前の判定では陰性、今の判定基準(1%以上が陽性)では陽性だということが判明したのです。

この患者さんの場合は、ホルモンレセプター陽性細胞がわずかで非常に弱い染まりだったのであまりホルモン療法が有効とは思えませんでしたが、もしかしたら転移巣のホルモンレセプター陽性細胞率は高かったのかもしれません。ホルモンレセプター陽性の場合は、XC療法やDMpC療法は特に良く効くのです。以前に調査した結果でも、転移巣のホルモンレセプターは陰性化することもありますが、原発巣が弱陽性で転移巣が強陽性に変わっていたケースも稀にあったので、可能性はゼロではありません。

1%を閾値とするようになったのは、2009年のSt.Gallen以降です。それ以前の患者さんのホルモンレセプターはほとんどが10%を閾値として判定されています。もしかしたらtriple negativeと判定されている患者さんの中にも同じようなケースがあるのかもしれません。もし、ホルモンレセプター陽性細胞が転移巣の大部分を占めているのであれば、ホルモン療法が効果を発揮する可能性もあります。できることならそのようなケースは転移巣の組織を採取してホルモンレセプターを再度調べてみた方が良いのかもしれませんね。

6 件のコメント:

pina さんのコメント...

先生こんばんは。いつも先生のブログを興味
深く拝見させて頂いております。
私は以前何度かかコメントさせて頂きましたpinaと申します。幸いなことに今の所再発無く、術後2年半を経過致しました。

ER/PgRは、両方とも10%未満でした。
担当の主治医の先生から、もし内分泌療法をするのであればタモキシフェンの内服になるとのことでしたが、主治医の先生もホルモン療法をあまり強く勧められなかったことと、強力な化学療法(FEC→T)をして、今も手の強張りや手指のしびれが後遺症として残っていることもあり、(日常生活に支障はないのですが)現在は無治療を選択しております。(自分自身納得しています)

南山堂出版のトリプルネガティブ乳癌という本を読んでいますが、(ちょっとななめ読みになっています)内容が難しいです・・・。

先生、TNBC関連で分かり易い解説をまた是非とも宜しくお願い致します!

hidechin さんのコメント...

>pinaさん
お久しぶりです。経過良好で良かったですね!
triple negativeについての本ですか?それはきっと難しいでしょうね…。もっと治療方針が明確になるとわかりやすくなると思いますが、もう少し時間がかかりそうです。
これからもよろしくお願いいたします。

みか さんのコメント...

古い記事への投稿ですみません。
病理の結果、トリプルネガティブと診断された者です。
が、詳しく検査するとER10%以下ですが、陽性反応が見られました。
その場合、ルミナールBになるのでしょうか?
リンパ節転移、脈管侵襲ともになし、悪性度3、Ki67は80%もあり、現在術後抗がん剤治療中(ドセタキセル)なのですが、ホルモン治療はした方が効果は期待出来るのでしょうか?
弱陽性でホルモン反応があるタイプの治療について ご教示頂きたくコメント致しました。

お忙しいところお手数ですが、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

hidechin さんのコメント...

>みかさん
ERは1%以上が陽性ですので、みかさんの場合はトリプルネガティブではなくルミナールタイプです。ただKi-67が高値ですのでルミナールBということになります。また、ERは陽性ではありますが、発現率が低いですので抗がん剤は行なった方が良いと思います。それでもER陽性は陽性ですのでホルモン療法は必須です。この記事で書いた症例のように、原発巣がER陽性率が低くても転移巣は強陽性ということもあります。ですからホルモン療法は受けた方が良いのです。
以上です。

みか さんのコメント...

先生お忙しいところありがとうございました。
自分の治療はこれでいいのだろうかと不安を持ったままでしたが、先生の言葉を読んでホッと出来ました。
私自身の体のことなのに分からない不安。
この記事を読んだとき、探していたことに出会えた気がしてコメントしてしまいました。
そして、回答頂けたことに心から感謝しています。

ネットの世界は情報で溢れています。
検索すれば何でも簡単に分かり便利ですが、反面、何を信じていいのか難しく、さ迷ってしまいます。
先生のような専門的な知識を持たれた方のブログはとても貴重です。

本当にありがとうございました。

hidechin さんのコメント...

>みかさん
納得していただけたのなら良かったです。
それではお大事に!