JAMAの2012.2.1号に米国における乳房温存術後の局所再発に関する報告が掲載されました(http://jama.ama-assn.org/content/307/5/467.short)。
概要は以下の通りです。
報告者:米国・ミシガン州立大学のLaurence E. McCahill氏ら
対象:2003~2008年に、米国4ヵ所の医療機関で浸潤性乳がんで部分切除術を受けた2,206人
方法:対象者における再切除率とリスク因子について観察研究を行なった
結果:局所再発に対する再切除→全体の22.9%(509人)…再切除1回 454人(89.2%)、2回 48人(9.4%)、3回 7人(1.4%)
初回手術時の切除断端と再切除率→(+)…85.9%、1.0mm未満…47.9%、1.0-1.9mm…20.2% 、2.0-2.9mm…6.3%
術者・医療機関と切除断端陰性における再切除率のばらつき→術者別…0-70%(執刀外科医の手術件数と再切除率との関連性はなし)、医療機関別…1.7-20.9%
以前も同様の報告を見たことがありますが、やはり米国の局所再発率は高率です。
米国の切除断端陰性の判断は日本とは異なります(日本では通常断端から5mmの間にがん細胞がなければ断端陰性と判定しますが、米国ではがん細胞が露出していなければ陰性と判断するようです)。切除の方法も乳房の大きな欧米人と日本人とでは若干異なります。つまり乳房温存術の際にがんから十分距離を置いた切除方法を取らないためにがんが遺残している確率が非常に高いということになります。放射線治療をすれば問題ないという安易な考え方の結果がこの高い再切除率の数字にあらわれているのだと私は思います。
日本においても美容を重視するあまり最近では米国にならった考え方(ぎりぎりで切除しても放射線治療しちゃえば大丈夫!というような…)で乳房温存術を行なっている医師が多くなってきている可能性があります。従来適応外であった症例に対して温存を勧めたり、術前化学療法後に遺残がん細胞に対する十分な配慮もなく温存術を行なう場合もあるようです。
米国のこのような結果を私たちは教訓にしなければなりません。実際最近の米国ではあまりに局所再発が多いために乳房切除術を選択するケースが増えていると以前耳にしたことがあります。乳房温存術が乳房切除術と生存率が同じなのは、きちんと適応を守った場合なのだということをきちんと理解しなければなりません。つまり局所再発する症例が乳房温存術群に多く含まれる場合には2つの術式の間に生存率の差が出る可能性は十分にあるのです(局所再発した症例としなかった症例との間には生存率に差があると報告されています)。やみくもに乳房温存術をすれば良いというわけではありませんし、放射線治療をすれば全ての局所再発を防げるわけでもありません。がんに対する慎重な考え方とがん治療における謙虚な気持ちを忘れるといつか痛いしっぺ返しをくらってしまうことになるのではないかと最近の日本の乳がん治療の姿勢を見て心配しています。
27 件のコメント:
とても、勉強になりました^^
温・・できれば・良い!というものでも、ないのですね・・・
ですが・・やはり、最初・告知された時は、
温存したいと、思いました・・
当然の、気持ちだと思います・・
断端陽性!と聞いたときは、まさか?っと思いましたが・・
私も、温存の時、断端陽性の時は、全摘となる、説明をうけてましたが・・
まさか!自分が、なるとは、思いませんでした・・
悲しかったです・・
やはり、乳房再建までが、治療~と、当たり前の、世の中になって、欲しいです。
そうしたら・・悲しみが、少し違うかも・と
思いました・・
>ホワイトさん
若い方ほど乳管内進展しやすいですので温存術での断端陽性率が高くなってしまうんですよね。なかなか難しい問題です…。
でも今は以前より乳房再建術が受けやすくなってきていますから、治療選択の幅が増えたと言えます。これは若い患者さんたちにとってはとても大きなことですよね。
温存手術、1年で局所再発、昨年、全摘した、52歳の乳がん患者です。
いつも、勉強させていただいてます。
全摘手術した総合病院では、最初の手術の処置が悪かった為の再発と言われ、
温存手術した病院では、タイプの違う多発ガンと言われました。
どちらだったとしても、前向きに頑張るしかありませんが、
ちなみに、グレード3はやはり、いずれまた、再発転移となるのでしょうか?
乳房内局所再発は比較的、予後がいいと先生が書かれているのを読んで、少し安心したのですが、悪性度が3であったこと、リンパに移転が3個あったことでとても不安でいたたまれません。
先生はどうおもわれますでしょうか。
>わさびさん
はじめまして。
2回の手術の病理所見を見ていないので、初回の手術後の対応が良かったのかどうかの判断はできませんが、最善の処置をしていても乳房内再発は一定の確率で起こりえます。
核異型度がgrade3であることは特別なことではなく、これも一定の確率で起こりえますし、grade3なら必ず再発するわけではありません。リンパ節転移は少ない、もしくはないに越したことはなく、リンパ節転移個数と予後には関連性はあります。しかし、10個以上のリンパ節転移があっても適切な化学療法を行なって無再発の患者さんもいらっしゃいますし、リンパ節転移がなくても早期に再発が見られてしまうこともあります。
大変ご不安なことと思いますが、いま一番大切なことは、今できる最善の治療をきちんと受けることだと思います。順調に治療が進むことをお祈りしています。お大事に!
お忙しい中アドバイス、ありがとうございます。
少し、心をやられています、悪い結果の情報しか目に留まらず、また、自分より、もっと
悪い症状の体験談を探してしまいます。
全てが統計上の数字に過ぎないと分かっていながら、目に見える確率の数字にとらわれてしまいます。
しかし、医師である先生のお言葉は、
何より励みになります。
頭で理解している事と心とのズレにより、
検診では、質問をする言葉がでません。
今はホルモン療法が始まったばかりです、
飲み忘れない様に頑張ります。
再発防止の為、生活面で日々出来る事があれば是非、記事でご紹介下さい。
>わさびさん
つい悪い情報に目が行ってしまうお気持ち、理解できます。少し時間も必要かもしれませんね。ただネガティブな思考は免疫にも良くない可能性がありますし、何より生活の質を落としてしまいます。できるだけ気分転換ができる方法を探しましょう。
再発予防に効果のある生活面の注意点というのはエビデンスがあるものはなかなか見当たりません。肥満を防ぐ、バランスよく食べて適度な運動をする、などによって余病を作らないようにすること、そして精神の安定を保つこと(上で述べたような気分転換や趣味を持つことなど)は大切なことだと個人的には思っていますし、患者さんにもお話ししています。
相談よろしくお願いします。
温存手術後ウィークリーパクリ、FEC75
そして放射線25回+5回受け終わり、
間もなくホルモン治療が始まります。
病理検査結果報告書に
「乳頭側断端、乳頭対側断端の切片にも癌腫の乳管内進展を認め、露出する可能性がある」とあります。
可能性というのはどういう意味なのでしょう。
今さらですが、私は再手術した方がよかったのかな?
全摘した方がよかったのかなと思ったりします。
先生には何もその点は言われなかったので、
当たり前のように抗がん剤、放射線治療へと進みました。
50才代
グレード3
1.9ミリ
Ki67は30%
やはり局所の再発率は高いでしょうか?
>はぐままさん
はじめまして。
乳房温存療法のガイドラインでは、切除断端の5mm以内にがんがあれば断端陽性(遺残の可能性あり)と判断されます(米国では断端に露出していなければ断端陰性と判断していますので基準が異なります)。
”可能性”と書いているのは切除標本では遺残しているのではないかと思っても、再手術してみるとがんが残っていることを証明できない場合があるからです(20年以上前は断端陽性と判断されたら全て再手術していましたが、遺残を証明できないことも時々ありました)。この理由には、最初の手術でぎりぎりでがんが取りきれていた場合と、本当はわずかに残っているけど切り出し面の中にがんが証明できないという場合の2つの可能性が考えられます(細かく切り出しても例えば1mmのがんの遺残はその間に入れば顕微鏡で証明できません)。
ですから現在の基準では残っている可能性がわずかと判断される場合は、実際には残っていない可能性もあることを踏まえて放射線治療を行なうことが多いのです。
2切片の断端陽性であればぎりぎり放射線治療で経過をみて良いケースだとは思いますが、慎重な経過観察が必要です。もちろん断端陰性と診断された場合に比べれば局所再発の可能性は少し高くなります。ただ、私の施設では断端陽性で放射線治療をした患者さんの中で今のところ局所再発は1人もいません(これには手術の切除方法、正確な病理検索、適切な放射線治療計画が影響します)。
放射線治療後に局所再発前に再手術をすることは通常ありませんが、ご心配でしたらその旨を担当医にご相談なさって下さい。それではお大事に!
お忙しい中、
早速にお答えいただきありがとうございました。
不安はまだまだありますが、
先生の説明で納得がいきました。
やれる治療はやったのだから、
これからのホルモン治療に向かっていきます。
毎月エコーでの診察もありますので、
先生にしっかり診てもらいます。
ありがとうございました。
>はぐままさん
そうですね。現時点ではそれがベストの考え方だと思います。それではお大事に!
今日先生のブログにヒットしまして、そのまま3時間読みふけってしまいました。それでもまだ一部しか読めてませんがとても勉強になります。ありがとうございます。
早速、質問させてください。
左乳房全摘予定。現在、治験にて術前化学療法中。トリプルポジティブ。grade3 浸潤性乳管癌。硬癌。リンパ節転移はなしの可能性。
乳頭乳輪温存皮下乳腺全摘術が可能ということなのですが、その場合、局所再発率は温存手術と同程度ということですか?
私のようにHer2陽性 grade3と再発リスクが高い場合、乳管内に広がるタイプであったら、乳頭乳輪は切除する方がベターでしょうか?
>匿名さん
はじめまして。
乳頭乳輪温存皮下乳腺全摘をするということは同時再建をするということでしょうか?同時再建をするという前提で、安全に乳頭乳輪を残せるのであればこの術式でも良いと思います(私の施設では同時再建をしていなかったのでこの術式の経験はありません)。もし二次再建を行なうつもりであれば乳頭乳輪を残すとかえって左右差の調整が難しくなりますので、私の施設では二次再建希望者に対しては乳頭乳輪は残していません(形成外科医の先生からもそういう意見が多いように思います)。
問題は安全に乳頭乳輪を残せるか?ということですが、これはHER2陽性、grade3などの条件だけの問題ではなく、匿名さんの画像所見がどうなのかによるのではないかと思いますので私が意見を述べることはできません。主治医にご確認下さい。なお、同じ条件の患者さんにおいて比較するとしたら、乳房温存術よりは乳頭乳輪温存皮下乳腺全摘のほうがほとんどの乳腺を切除できるわけですから当然がんの遺残は少ないです。しかし乳房温存術の場合は放射線治療を行ないますので、万が一がんの遺残があった場合の局所再発率は乳房温存術の方が低くなる可能性があります(意味がわかるでしょうか…?)。
高い確率でがんが遺残なく切除可能と予想される(乳頭近傍まで乳管内進展が疑われない場合など)同時再建希望者のみに乳頭乳輪温存皮下乳腺全摘を行なうべきであるというのが私の意見です。以上です。
早速のご回答ありがとうございました。
出かけていたのでパソコンをチェックできず、お礼が遅くなり申し訳ございません。
先生のおっしゃるとおり、ティッシュエキスパンダーによる同時再建希望であります。
乳頭乳輪を残す場合は温存手術と違って、放射線治療をしないので、かえって再発率が高くなるのではないかと私も感じていたことでしたので、先生のご意見にとても納得致しました。
画像上、がんはもともと乳頭乳輪から離れたところにあったようですし(現時点ではMRI上は消失)、術中の病理検査で断端陰性であったら残せますとのことでした。
残すことによって局所再発のリスクは高くなることを覚悟はした方がよいということですね。
万が一乳頭乳輪に再発した場合はその時切除してしまえばよいということではなく、遠隔転移の確立も高くなると考えた方がよいのでしょうか?
乳がんの方皆さんそうだと思いますが、命が一番大切です。絶対に再発したくないです。
でも、自分の胸がなくなることに対する絶望感もとても大きいです。だから迷ってしまって。
>匿名さん
乳頭乳輪を残すことイコール局所再発率が乳房温存術より高くなると言っているわけではありませんよ。上にも書いた通り、乳房温存術と乳頭乳輪温存皮下乳腺全摘術全体を比較すれば、局所再発率自体はがんの遺残率が少ない乳頭乳輪温存皮下全摘術のほうが低いのは間違いありません。このあたりは文章だけで説明するのは難しいかもしれませんね…。
私が述べたのは、”万が一がんが残ってしまった場合”に(これは術後の病理標本の検索で判断できますが、高度に乳管内進展が見られた場合の剥離面などの判断は100%ではありません)放射線をかけない乳頭乳輪温存皮下乳腺全摘術では局所再発率が高くなってしまう”可能性がある”ということです。例えば皮下剥離面でがんが実際には残っているのに病理学的に陰性と診断されてしまった場合、温存術であればがんが残っていても放射線をかけますので制御できる可能性はありますが、乳頭乳輪温存皮下乳腺全摘術では放射線をかけないので局所再発してくる可能性があるというような意味です。
また、乳頭乳輪を残すことによって、がんの遺残率の増加とそれに伴う局所再発率の増加がみられるのかどうかについては、大規模な比較試験では乳房全摘術と乳頭乳輪温存皮下乳腺全摘術の間で局所再発率に差が出なかったことから、否定的な見解の医師も多いかもしれません。このあたりは考え方だと思いますが、多くの症例数の中に埋没されてしまうと有意差が出なくても、広範囲の乳管内進展がある患者さんだけにしぼって比較すれば有意差が出る場合もありますのでなんとも言えません。
なお乳頭乳輪温存皮下全摘術を行なったあとの病理検査で断端陽性と判断された場合にどうするかについてはあらかじめよく相談しておく必要があります。せっかく入れたティッシュエキスパンダーやインプラントを取り出して再手術または放射線治療をするのかどうかまで考える必要があるからです。ただし、この可能性は非常に低いとは思います。
また、乳頭乳輪に再発した場合の遠隔転移率についてはまた説明が長くなります。局所再発した人も含めた乳房温存術と乳房全摘術との間で予後に差が出なかったことから、局所再発は早期に発見すれば予後に影響しないという見方もできますが、これは実は正確ではありません。症例全体の中で局所再発した実数が少なかったから差が出なかった可能性があるからです。また別の検討では、局所再発した人としなかった人を比べると予後に差があったという報告もあります。つまり局所再発の一部は遠隔転移の原因になりうる可能性があるということです。
ただ、局所再発の中にはリンパ管の中をがんが広がる炎症性乳がん型の再発と言って非常に予後が悪いタイプの再発があり(これは全摘しても起きうるタイプです)、局所再発は遠隔再発の予測因子の側面も持っています。ですからそもそも局所再発した症例の中には炎症性乳がん型再発をきたしやすいような遠隔再発しやすい乳がんを含んでいるから予後に差が出るのだと主張する医師もいます。
詳しく説明するとますますわからなくなると思います。詳細な説明は主治医にお聞きになったほうがよろしいかと思いますよ。ごちゃごちゃ書きましたが、実際、乳頭乳輪を残したことによって、その乳管内に局所再発したとしても、早期に再切除すれば予後への影響はそれほど大きくはないと私は思います。
以上です。それではお大事に。
お忙しい中、大変詳しいご説明でとても恐縮しております。本当にありがとうございました。
乳頭乳輪温存術の場合、温存手術に比べ、理論上局所再発の確立は低くなるが、広範囲に乳管進展していた場合は、当然乳頭乳輪にも進展している可能性はあり、それでも、病理で断端陰性と判断される場合もあるので、放射線治療をしない乳頭乳輪温存術の方が、再発率が高くなる「可能性」もあるということですね。
そのリスクを考慮し、それでも自分の乳頭乳輪に拘るかどうか、もう一度よく検討したいとおもいます。
また、局所再発した場合、遠隔転移の原因になることもあり得るということですね。
術後の病理検査で断端陽性となった場合のエキスパンダー摘出については主治医とよく相談することとします。(私は術中迅速検査で判断できると勘違いしていました。それで陰性だったら乳頭乳輪温存→エキスパンダー、陽性だったら全摘→エキスパンダーだと勝手に思ってました)
不安なことばかりですが、先生のご説明でまた一歩前進することができました。
本当にありがとうございました。
>匿名さん
術中の診断で乳頭側についてはほぼ診断できると思います(ただし100%ではありませんが)。ただ、乳頭乳輪温存皮下乳腺全摘術の場合は皮弁を厚くするために、特に乳管内進展が高度な場合は皮下に乳管内がんが遺残する可能性が通常の乳房全摘術に比べると少し高くなります(それでも稀ではあります)。これは術中に診断することは困難であり、術後の病理標本でも100%診断できない場合があるということです。匿名さんがおっしゃる「術中迅速診断で陰性だったら乳頭乳輪温存→エキスパンダー、陽性だったら全摘→エキスパンダー」という考え方は正しいですよ。ただ例外もありますし、そのようなリスクは0%ではないということだけです。通常はそのようなリスクは少ないと判断できる場合にこの術式を選択するのだと私は思っています。匿名さんの場合がどうなのかは画像を見ていませんのでなんとも言えませんが、主治医の先生が勧めるのでしたらそのリスクは低いのだと思います。以上です。それでは。
ありがとうございます。
もう一度主治医とも良く相談して考えたいと思います。
何度もご丁寧に本当にありがとうございました。
初めてメールいたします。
50歳、未婚、出産経験なし、今年1月にパコラ生検で左乳房DCISと診断、3月に全摘+同時再建手術を受けました。現在ティッシューエキスパンダーで皮膚を拡張中です。診断以来今まで、先生のサイトのおかげで治療方法に納得して臨んでこれて、大変感謝しています。
今日は、摘出した病理診断の結果が予想外だったので、先生のお考えを伺いたくてメールいたしました。病巣は非浸潤ですが範囲が広く、切断した断面に僅かに病理細胞が残っていたのです。主治医の先生からは、放射線治療、ホルモン療法とも受けられると説明がありましたが、経験上は経過を観察、治療は不要とのお考えでした。9月に血液検査を受けることでその場は納得して帰ったのですが、完治という前提が崩れた様で、動揺しています。病理診断結果を紙でもらい忘れてしまったのですが、生検時のものは次のとおりです。
ER、PR共: 陽性率5、シグナル強度3+、(J-SCORE 3b)
HER2: 1+(乳管内)
Ki67標識率: 5%(乳管内)
今後、無治療のまま再建に集中して良いと先生は思われますか?
全摘でも切断面に病巣が残ることは、見えないものである以上止むを得ないのでしょうか。
お答えいただければ、嬉しいです。
>匿名さん
はじめまして。
実は匿名さんのようなケースが同時再建の場合に非常に悩ましいのです。同時再建しない場合の乳房全摘でがんが遺残するケースは非常にまれだったのですが(それでも0%ではありません)、同時再建する場合は整容性を考えて通常の乳房全摘より皮弁を少し厚めにするケースが多いため、このような乳管内進展が広い場合に遺残してしまうことがあるのです。ティッシューエキスパンダーではなく、乳頭乳輪を残したインプラントを最初から挿入する一次一期再建の場合はさらに遺残の可能性が高くなります。以前、本州の有名な一次再建の病院にまで行って同時再建を受けた患者さんの病理結果を見たことがありますが、およそ乳房全摘とは言えないような狭い切除を行なった結果、広範囲にがんが遺残しており(しかも乳管内がんだけではなく浸潤がんも)、ティッシューエキスパンダーを挿入したまま放射線治療を受けざるを得ない結果になっていました。
匿名さんの場合は、非浸潤がんですので遺残したがんも乳管内がんだったはずです。断端陽性と診断された範囲が狭く、切除断端に露出していない場合は、断端陽性と言っても実際は残っていない可能性もあります。そういう意味から主治医の先生は経過観察でも良いとご説明されたのだと思います。ただ私は実際に病理結果を見ていませんし、本当に遺残しているのかは誰にもわかりませんから、ご心配であれば放射線治療について検討してもらっても良いのではないかと思います。ただ放射線をかけると整容性が低下しますし、その後の皮弁の伸展も悪くなります。合併症も起きやすくなりますので十分な考慮が必要だと思います。主治医の先生とよくご相談の上、場合によっては形成外科や放射線治療科の先生の意見もお聞きになってご判断下さい。
それではお大事に。
hidechin先生、
お返事、ありがとうごさいます! 整容性を意識しての結果だったかもしれません。傷はとても綺麗で驚くほど明るい気持ちで過ごしておりましたので。。。しっかり切除できていても、患者は傷跡に落ち込むこともあるでしょうし、難しいですね。 hidechin先生の説明を伺って、かなり落ち着くことができました。 主治医の先生に、切除断端の状態についてしっかり確認の上、決めたいと思います。今回は、少し楽観的すぎました。思い通り、予定通りにいかない病気にかかったことを肝に命じます。
先生のブログがあって良かったです。とても大変と思いますが、がんばってくださいね!
>匿名さん
ありがとうございます。少しでもお役に立てたなら良かったです。
それではお大事に!
hidechin先生
こちらのサイトを拝見しご相談いたしたく、書き込みさせていただきました。
誰にも相談できず、早々に判断しなければならず悩んでおります。宜しくお願い致します。
39歳・未婚・出産なしです。5月中旬に温存手術をしました。
乳頭から2cm下の所に腫瘍があったようです。
乳頭1~2㎜を残して温存していただきましたが、本日、病理検査が出ました。
乳頭部分の断端は陰性のようでしたが、基底部分に断端陽性がありました。
主治医は、「乳管は取りきっているから大丈夫だと思う。
抗がん剤は不要で、ルミナールAのタイプ。放射線+ホルモン剤で進めましょう」と言われました。
断端陽性が気になり、再発の可能性をお聞きしましたが、直ぐ放射線治療をするのと部分切除するのとでは1.2%程度しか変わらないとのことでした。
再発がとても不安の旨を相談しましたところ
部分切除か全摘出にするか、どうしますか?と聞かれており3日後に回答することになりました。
再発不安が大きいですが、手術で気持ちが悪く酷い状態になりました。
先生なら、どの方法で治療を進めますでしょうか・・・宜しくお願いいたします。
追加切除か全摘出が、放射線治療+ホルモン剤かで悩んでおります。以下病理検査結果です。
【腫瘍部位】 右乳腺 EBD領域
【腫瘍大きさ】8×4mm+3×2mm(追加切除)
【浸潤程度】 f
【組織型】 充実腺管癌
【グレード】 Ⅰ
【乳管内進展】あり(軽度)
【脈管侵襲】 ly-0 ,v-0
【断端侵襲】 あり(間質浸潤)
【免疫組織所見】 ER+(score3)
PgR+(score3)
Ki67 +50%
HER2 0
【組織所見】40×35×18㎜大の右乳腺部分切除材料と、11×17×6㎜大の追加切除組織が提出されました。
EBD領域に8×4mm大の結節状腫瘍がみられ組織学的にはsolid tubularです。
腫瘍周辺の乳管内進展が軽度にみられ、#4のブロックでは基底側の断端浸潤を否定できません。
また追加切除部分にも腫瘍の浸潤がみられます。
>匿名さん
はじめまして。とても不安なお気持ちはよく理解できます。
ただ、実際に手術したわけでもなく、切り出し図を見ているわけでもありませんから、どの程度本当にがんが遺残している可能性があるのかがわかりませんので、軽率に放射線で大丈夫とも追加切除(全摘も含めて)した方が良いとも言えないのです。
もしどうしても迷うようでしたら、近くに症例の豊富な病院があればそちらにセカンドオピニオンを依頼してみてはいかがでしょうか?
あまりお役に立てなくてすみませんが以上です。
お大事に!
hidechin先生。お忙しいところご回答有難うございます。
本来、主治医に聞くべきことは承知しております。
セカンドオピニオンは、何度も思いましたが、3日後に結論を出さなくてはいけないので時間がありません。
標本や実際に手術をしていただいたわけでもないのに、お聞きするべきではないのは重々承知しておりますが一般論でお教えいただけませんでしょうか・・・。
①一番の不安部分は、断端陰性と比較して断端陽性が原因で再発する可能性が高くなり、再発まで様子を見た場合、局所再発が発見できる前に、時間の経過とともに、目に見えないガン細胞が全身をめぐり、転移することです。
このような転移の可能性が高くなることはありませんでしょうか?
②所見の断端浸潤:あり(間接浸潤)をもってして、明らかに浸潤していても放射線治療で医師が大丈夫と判断できる場合は追加切除手術の提案は、しないものでしょうか?
③乳管を取り切っていても、間質浸潤・脂肪部分にがん細胞があるのなら、そこから増殖する可能性はないのでしょうか?
それとも間質部分では増殖しないのでしょうか?
疑問に思うのは、主治医の方から追加切除手術の提案が無く、断端陽性の説明はスルーされたので、疑問に思いお聞きしましたら、「再発したら、その時点で手術すれば間に合うからそれでも遅くない」との事でした。
④再発の手術について本等で調べたところ、再発後の手術は「全摘」しか ないようなのですがそうなのでしょうか…?
⑤一般論で、①全摘後+ホルモン治療 ②部分切除+放射線+ホルモン治療 の場合どちらの方が再発率は低くなりますでしょうか?
⑥私のKI67値は50%と、非常に高いのですが、ホルモン剤が有効ならば、この数値でも抗がん剤の必要性ないのでしょうか?
⑦断端陰性になるまで再手術していただくか、局部再発の可能性が ないならいっそ全摘の方が精神的にいいのかと悩んでおります。
(術前の主治医は、この程度で全摘は必要ないとのことでしたが、術後は全摘もあり、と言われました)
追加手術や全摘手術をしても断端陰性にならないこともありますか?また、全摘したらその乳房では再発はないのでしょうか?
⑦部分切除手術のときは2泊3日の尿管無の手術だったのですが、全摘となると、手術程度や傷の後遺症は、部分切除と比較してどの程度重くなるものでしょうか?
現在、温存手術後1ケ月たちますが脇の下の感覚が鈍いのと若干痛みがある程度です。
1度の手術結果で目に見える再発不安(断端浸潤)がなければ、すぐ放射線治療+ホルモン治療に進みたかったのですが週末に主治医と面談がありますので、少しでも説明が理解したく先生にはご迷惑をおかけして申し訳ございません。
>匿名さん
一般の方に実際に顔を合わせずに誤解のないようにわかりやすくご説明することは簡単なことではなく、時間も要します。しかも簡単にお答えできる1つ、2つならまだ良いのですが、申し訳ありませんがこれだけ多くのご質問に詳細にお答えする時間的な余裕はありません。ですから本来はセカンドオピニオンを受けるべきなのです。主治医に返事をする時にセカンドオピニオンの希望を伝えれば良いと思うのですが…。
以上をご理解いただければ幸いです。お答えできる範囲内で簡単にお答えいたします。
①断端陽性であっても実際にがんが残っていないこともあります。その場合は陰性と同じと考えて良いですが誰もその真実はわかりません。実際にがんが遺残した場合、放射線治療やホルモン療法などで消えればこれも断端陰性と同じになります。でもこれも調べようがありません。もし放射線治療などで完全に死滅しなかった場合、この時はいずれ大きくなり局所再発と診断されます。遺残しているのは浸潤がんの可能性が高いですから、当然大きくなっていく過程で静脈やリンパ管を経由して転移する可能性は出てきます。ただ必ず転移するわけではありません。
②これは実際に見ていないので正確にはお答えできません。ただ私は必ず追加切除の選択については提示します。
③乳管内の遺残であればそのまましばらくおとなしくしている可能性はあります。局所再発しても乳管内のみのがん(非浸潤がん)として発見される可能性もあります。しかし浸潤がんが遺残して再発した場合は必ず浸潤がんとして再発しますから乳管内より注意が必要です。ですからこのご質問の答えは間質に遺残したがんが増殖する可能性はあるということです。
④温存術後には必ず放射線治療を行ないます。その上で局所再発した場合、もう放射線治療はできませんので温存手術は原則的に適応となりません(再再発のリスクを覚悟して非照射で温存術を希望されるケースはあると思いますが、原則的にはお勧めできません)。ですから全摘術が適応となります。
⑤局所再発のことをおっしゃっているなら当然全摘術の方が再発率は少ないです。遠隔転移率のことであれば、適応を守って温存術を行なっていれば両者に差はありません。
⑥Ki-67が高値であればLuminal Bになりますので抗がん剤の投与を考慮します。ただリンパ節転移がなく、浸潤径が小さい場合や高齢の場合などでは抗がん剤を行なわない場合もあります。
⑦一度手を加えた部位に再手術する場合、やりにくいことはあります。細かいことはご説明しにくいのですが、どこで浸潤がんが断端陽性になったのかによって異なるのです。例えば皮下剥離面で陽性であれば、その周囲の皮膚を合併切除しなければ完全切除できない可能性もあります。ただそうなると整容性が著しく損なわれる可能性もあります。きちんと全摘すれば局所再発の可能性は低くなりますが、同様の理由で遺残した可能性のある部分をきちんと切除できなければ局所再発の可能性はゼロではありません。
⑧これは施設によっても若干違いますので主治医にお聞き下さい。
以上です。
hidechin先生
お忙しいのにお時間をいただき、ご丁寧にお教えいただきまして
本当に有難うございました。とっても感謝しております。
前向きに治療していきたいと思います。
本当に有難うございました。
>匿名さん
主治医の先生とよくご相談の上で納得いく治療をご選択下さい。
それではお大事に。
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