2010年7月1日木曜日

ホルモン療法の副作用5 脂質異常と脂肪肝、NASH

中性脂肪が上昇したり、脂肪肝による肝機能障害が出るのもタモキシフェンでよく見られる副作用です。軽度のものも含めるとかなり高率です。薬物療法が必要になったりタモキシフェンを中止しなければならないこともそれほど多くはありませんが時々あります。年齢的にも肥満になりやすく、閉経の影響も加わるとなおさらこれらの副作用は起きやすくなります。

治療は運動療法と食事療法が基本ですが、なかなか改善しないことも多いです。
あまりひどい場合は閉経前ならトレミフェン(商品名 フェアストン)に変更します。トレミフェンの適応は原則的には閉経後となっていますが、タモキシフェンと同様の抗エストロゲン剤なので効果としては問題ありません。同じ抗エストロゲン剤ですがタモキシフェンに比べると中性脂肪の上昇や脂肪肝の発生は少ないと言われています。閉経後であればアロマターゼ阻害剤に変更するのが良いと思います。

一般的には脂肪肝は起きても軽度の肝機能障害程度ですむことが多いのですが、中には重篤な肝障害を起こすことがあります。
高知医大の根本禎久先生らの研究の要旨を以下に示します。

“治療開始後2カ月〜3年以内に日本人女性乳癌患者の実に36%で、高度で急速に進行する脂肪肝が生じる。その病態を明らかにする過程で、高度の脂肪肝を生じた患者さんは肥満に乏しいにもかかわらず全身性の脂質代謝異常を生じていること、その半数が肝障害をきたすこと、検索し得た症例では病理組織像がnon-alcoholic steatohepatitis(NASH)の所見に合致することを我々は明らかにした“
“そこで、私はエストロゲン欠損マウスを作成し、その病態を解析したところエストロゲンは脂質のβ酸化に深く関与しており、その欠損により脂質のβ酸化能が著しく低下し高度の脂肪肝を生じることを明らかにした”

36%の発症率は少し高すぎるような気がしますが、肥満でもないのに超音波検査で高度の脂肪肝が見られることは実際あります。
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は肝細胞変性・壊死と炎症・線維化を伴う予後不良と言われる肝疾患です。超音波検査での鑑別は困難ですが、血液生化学検査で、単純性脂肪肝かNASHかの鑑別はある程度可能です。NASHの多くは線維化を伴い、炎症や肝細胞変性・壊死も存在するので単純性脂肪肝に比べ炎症を反映する血清トランスアミナーゼ(ALT値)がより高値で、線維増生のために血小板低下や線維化マーカー(ヒアルロン酸やⅣ型コラーゲン)高値例が多く、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IR(空腹時血糖 x 血中インスリン値/405)高値、鉄蓄積の指標である血清フェリチン高値例が多くみられると言われています。

なお、最近、私の患者さんでトレミフェン内服中にNASHと診断された患者さんを経験しました。タモキシフェンに比べ、副作用の少ない薬であり、NASHの報告は今まではないようですが一応注意は必要です。アロマターゼ阻害剤ではNASHの報告は聞いたことがありませんし、経験もありません。

ホルモン剤内服中の患者さんで、肝機能の急速な悪化が見られる場合にはNASHの可能性を考えなければなりません。このような副作用の可能性があるため、私はホルモン剤処方中の患者さんには3ヶ月に1回は血液検査をしています。乳癌の術後に定期的な血液検査は不要と言うDrもいますが、ホルモン剤内服中には定期的な副作用のチェックは必要だと私は思います。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

元々、NASH(stageⅣ)と診断されて外来通院中の患者さんが乳癌(stageⅡ)となり術後にアリミデックスの投与が開始されています。今後、肝疾患の進行がないとよいのですが?

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
NASH発症後にアロマターゼ阻害剤に変更した患者さんは経験していませんので実際のところその後どうなるかはわかりませんが、慎重な経過観察は必要ですよね。悪化しないと良いですね!